心が曲がると身体も曲がる

同居生活が三ヶ月を過ぎた頃、私は毎日の生活が辛くてそれが胃腸に直撃していました。

母が毎日、毎日騒ぎます。

「ご飯がまずい!洋服が無い!靴下が無い!通帳が無い!カードが無い!」

昼間は父に向かって騒いでいるのでしょう。

父は母をなだめるのにくたくたになりました。

夜になると、今度は攻撃が私に集中します。

「こんなまずいご飯なんて食べられないわよ!」

すると母にこれ以上責められたくない父も「まずい」と言い始めます。

毎日、毎日責められ続け、私へはとへとになりました。

料理も手帳に毎日の献立をメモしながら、色々と工夫をしましたが無駄な努力に終わりました。

そのうち、私も疲労から体調が崩れ始め、「食事が喉を通らない、夜眠れない、夜中に足がつる」の日々が続きました。

そんなある日の事。

母の姿が何時間も見えなくなりました。

心配になって「一人で散歩にでかけたのか?お買い物に行ったのか?」と家族で探し始めて数時間後。

母は裏庭に倒れた状態で発見されました。

倒れていたというか庭で寝転がっていたのです。

そして文字通りそのまま何時間も眠っていました。

母の心は荒れ果てていたのでしょう。

転んだ時にふてくされてそのまま寝てしまったのかもしれません。

しかし寝ていた体制が悪かったのです。

身体を横にくの字に曲げたまま冷たい土の上で寝ていたせいか、その日から身体がくの字に曲がったままになりました。

前向きに身体が曲がるのなら理解ができるのですが、母の身体はなんとラジオ体操のポーズのごとく右に四十五度ほど曲がったままになっていました。

まるで漫画のようです。

最初は冗談かと思ったのですが、何日たっても横に曲がっているので、父が心配して病院に連れて行きました。

レントゲンで確認すると、骨が見事に右四十五度に曲がっていて医者には「これはもう元には戻りません」と言われ帰ってきました。

父は落胆しつつ、でもあきらめませんでした。

家の廊下の突き当たりに大きな姿鏡を置き、毎日母の歩行訓練を始めたのです。

「鏡を見ろ!もっと身体をまっすぐに立てろ!しっかり歩け!」

軍隊のように何度も何度も廊下を往復させ、叱咤激励するのです。

「いやいや、骨から曲がっているのだからまっすぐ歩けるわけないじゃない…。」 私の心のつぶやきはもはや誰も聞いていませんでした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です